近時、日本の社会は、急速、少子高齢化社会が進行しています。内閣府の本年の推計人口によると、65歳以上の人口は3557万人となり、総人口に占める割合は28.1%と過去最高を更新、人口の4人に1人が高齢者となりました。右を向いても左をみても、高齢者ばかりの状況になってきました。
このため、相続に関する様相が変わってきました。相続を考える前に、認知症の親の介護が大きな問題になってきました。親と同居していても、遠く離れて暮らしていても、親の介護については、精神的、身体的な負担の問題、そして経済的な問題が大きくなってきています。
しかしながら、これに対し適切な対処が、なかなかできていないのが実情です。このため、「何もせずに先延ばしする」こと自体が、大きなリスクになって来ました。
内閣府の資料では、2025年には65歳以上の高齢者の約5人に1人が認知症患者になると推計されています。
認知症になるということは、財産に関する判断能力を失うことになり、財産の凍結されることになります。預金が銀行から引出をできなくなります。自宅を、貸したり処分することができなくなります。
日本人は勤勉に働いてきましたから、高齢者は、将来、子供に迷惑をかけたくない、寝たっきりになっても生活を維持できるようにしたいという思いで、財産を蓄えています。内閣府の調査では、60歳以上の一世帯あたり平均で2400万円の貯蓄があり、そのうちの約2割は4000万円以上の貯蓄があるとなっています。また、70歳以上の一世帯あたり平均で負債額はほぼゼロであり住宅ローンはなくなり、持ち家率は9割を超えております。
このように貯蓄もあり持ち家もある高齢者世帯に、認知症リスクである、財産凍結のリスクが高まることになるのです。
他方、生活にお金がかかる子ども世代は、住宅ローンの返済や教育費など大変であり、親の面倒を見たくとも容易でないのが実情であります。ところが、親が認知症になってしまうと、親が親自身のために蓄えて「万が一の備え」を使うことができないリスクのために、親も子も行き詰まってしまします。
現在、民法に「成年後見制度」を利用して、多少の財産凍結を解消することができますが、使いづらい制度であり、親の子の意思をそのまま実現できない制約があります。
これまで、認知症などによる財産凍結を防止する有効な手段がありまんでした。しかし、信託法が2006年に改正されて、信託を活用した「家族信託」という仕組みが可能となりました。「家族信託」は、財産の持ち主が財産について願う形で使われるようにする有効な仕組みであり、信頼して託する方法です。「家族信託」の活用により、認知症リスクを克服して、「親の財産を親の老後のために使えるように」することができるのです。
是非、「何もせずに先延ばしする」のでなく、家族で「家族信託」の活用を話し合われては、いかがでしょうか。
また、中小企業経営者にとっても、認知症リスクがあります。例えば、株主としての議決権を行使が、認知症リスクによって、凍結されるおそれがあります。その凍結リスクを、「家族信託」の活用によって回避することができますので、ご検討ください。
弁護士 太田 勝久
太田勝久
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